法令等で作成又は保存を義務付けられている診療録等を一旦紙等の媒体で作成されたものを受領又は保存又は運用した後に、スキャナ等で電子化し、保存又は運用する場合の取扱いについてまとめてみました。
目次
A.制度上の要求事項
民間事業者等が、法第三条第一項の規定に基づき、別表第一の一及び二の表の上欄に掲げる法令のこれらの表の下欄に掲げる書面の保存に代えて当該書面に係る電磁的記録の保存を行う場合並びに別表第一の四の表の上欄に掲げる法令の同表の下欄に掲げる電磁的記録による保存を行う場合は、次に掲げる方法のいずれかにより行わなければならない。
一 (略)
二 書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取ってできた電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
(e-文書法省令 第 4 条)
9.1 共通の要件
スキャナ等による電子化を行う具体的事例は、次の 2つの場面を想定することができる。
(1) 電子カルテ等の運用において、診療の大部分が電子化された状態で行われている一方、他院から紙やフィルムでの診療情報提供書等の受け入れが避けられない事情がある場合
紙の調剤済み処方せん(薬剤師法第 28 条第 2 項に基づき調剤録への記入が不要とされた場合の調剤済み処方せんを含む。)も、これに相当する。
(2) 電子カルテ等の運用を開始し、電子保存を施行したが、施行前の診療録等が紙やフィルムで残り、一貫した運用ができない場合、及びオーダエントリシステムや医事システムのみの運用であって、紙等の保管に窮している場合
C.最低限のガイドライン
・ 診療情報提供書等の紙媒体の場合、診療等の用途に差し支えない精度でスキャンを行うこと。
・ 放射線フィルム等の高精細な情報に関しては日本医学放射線学会電子情報委員会が「デジタル画像の取り扱いに関するガイドライン 3.0 版 (平成 27 年 4 月)」を公表しており、参考にされたい。
・ このほか心電図等の波形情報やポラロイド撮影した情報等、様々な対象が考えられるが、医療に関する業務等に差し支えない精度が必要であり、その点に十分配慮すること。
・ 一般の書類をスキャンした画像情報は、汎用性が高く可視化するソフトウェアに困らない形式で保存すること。
9.2 診療等の都度スキャナ等で電子化して保存する場合
一定期間とは改ざんの動機が生じないと考えられる 1~2 日程度以内の運用管理規程で定めた期間で、遅滞なくスキャンを行わなければならない。時間外診療等で機器の使用ができない等のやむを得ない事情がある場合は、スキャンが可能になった時点で遅滞なく行うこととする。
9.3 過去に蓄積された紙媒体等をスキャナ等で電子化保存する場合
1. 電子化を行うに当たって事前に対象となる患者等に、スキャナ等で電子化を行い保存対象とすることを掲示等で周知し、異議の申立てがあった場合はスキャナ等で電子化を行わないこと。
2. 必ず実施前に実施計画書を作成すること。実施計画書は以下の項目を含むこと。
・ 運用管理規程の作成と妥当性の評価(評価は、大規模医療機関等にあっては、外部の有識者を含む公正性を確保した委員会等で行うこと(倫理委員会を用いることも可))
・ 作業責任者の特定
・ 患者等への周知の手段と異議の申立てに対する対応
・ 相互監視を含む実施の体制
・ 実施記録の作成と記録項目(次項の監査に耐え得る記録を作成すること)
・ 事後の監査人の選定と監査項目
・ スキャン等で電子化を行ってから紙やフィルムの破棄までの期間、及び破棄の方法
3. 医療機関等の保有するスキャナ等で電子化を行う場合の監査をシステム監査技術者やCertified Information Systems Auditor(ISACA 認定)等の適切な能力を持つ外部監査人によって行うこと。
4.外部事業者に委託する場合は、9.1 章の要件を満たすことができる適切な事業者を選定すること。適切な事業者とみなすためには、少なくともプライバシーマークを取得しており、過去に情報の安全管理や個人情報保護上の問題を起こしていない事業者であることを確認する必要がある。また、実施に際しては、システム監査技術者や Certified Information Systems Auditor(ISACA 認定)等の適切な能力を持つ外部監査人の監査を受けることを含めて、契約上に十分な安全管理を行うことを具体的に明記すること。
9.4 紙の調剤済み処方せんをスキャナ等で電子化し保存する場合について
1. 紙の調剤済み処方せんの電子化のタイミングにより、9.2 章又は 9.3 章の対策を実施すること。
2. 「電子化した紙の調剤済み処方せん」を修正する場合、「『元の』電子化した紙の調剤済み処方せん」を電子的に修正し、「『修正後の』電子化した紙の調剤済み処方せん」に対して薬剤師の電子署名が必須となる。電子的に修正する際には「『元の』電子化した紙の調剤済み処方せん」の電子署名の検証が正しく行われる形で修正すること。
9.5(補足) 運用の利便性のためにスキャナ等で電子化を行うが、紙等の媒体もその
まま保存を行う場合
1. 医療に関する業務等に支障が生じることのないよう、スキャンによる情報量の低下を防ぐため、光学解像度、センサ等の一定の規格・基準を満たすスキャナを用いること。
2. 管理者は、運用管理規程を定めて、スキャナによる読み取り作業が、適正な手続で確実に実施される措置を講じること。
3. 緊急に閲覧が必要になったときに迅速に対応できるよう、保存している紙媒体等の検索性も必要に応じて維持すること。
4. 電子化後の元の紙媒体やフィルムの安全管理を行うこと。